岩手阿部製粉株式会社『雑穀おはぎ(ずんだあん)』2023金賞受賞インタビュー

金賞を受賞した冷凍和菓子は、地元農業への想いと、長年のノウハウの蓄積から誕生しました。

岩手阿部製粉株式会社様の「雑穀おはぎ(ずんだあん)」は、8種類の穀物を使った生地でずんだあんを包んだ冷凍和菓子です。雑穀の程よい食感が味わえ、雑穀とずんだあんの色のコントラストにより目でも楽しめる点、そして冷凍食品とは思えないおいしさなどが評価され、日本雑穀アワード2023〈フローズン食品部門〉で金賞を受賞されました。今回、企画、開発から関わっている、同社取締役営業部長の菊池俊哉さんに商品開発にまつわる話、花巻の農業への想いを中心にお話を伺いました。

最初に、受賞商品の特徴について教えてください。

国産の雑穀によるプチプチした食感ともち米を使ったもっちりした食感の両方を楽しめる生地が特徴です。その生地で、すっきりとした優しい甘さに抑えたずんだあんを包みました。

開発したきっかけは、どのようなことからなのでしょうか。

お取引先である生活協同組合様から、「雑穀を使った商品」と「東北地方ではなじみのあるずんだあんを使った商品」を冷凍和菓子で開発してほしいと依頼を受けました。雑穀の食べ方として、ご飯と一緒に炊くイメージを持っている人は多いと思います。あえて和菓子の原料として使うことで、より手軽に雑穀を楽しんでほしいという意図があったようです。依頼を受け、せっかくなら両方を合体させた商品を作ってみようと考えました。それが、2022年4月で、約半年の開発期間を経て、同年9月に完成しました。

完成までどのようなことに苦労されましたか。

まず、使用する雑穀を選ぶ際に悩みましたね。当社では、道明寺粉を使った「おはぎ」や、もち米でつくった生地をずんだあんでくるんだ「ずんだ餅」を製造しています。そのため、完成品のイメージはできていたものの、おはぎと相性の良い雑穀の種類を選ぶのに難航しました。

いろいろと検討していった中、同じ花巻市にある株式会社JAグリーンサービス花巻 プロ農夢花巻事業本部様で扱っている「白六穀」と出会い、使ってみると生地との相性がとても良く、使用させていただくことになりました。この「白六穀」は、ひえ、大麦、きび、はとむぎ、あわ、アマランサスの岩手県産雑穀6種類をブレンドした商品です。

雑穀の加工方法で工夫された点はありますか。

蒸す段階で、またしても苦労しました。生地を紫色にするため黒米を入れると決めたのですが、もち米と白六穀と黒米を一緒に蒸すと、黒米にだけ硬さが残ってしまったのです。黒米はもともと皮が厚いので、ある程度残ると予測していましたが、予想以上の硬さでした。そこで、黒米のみ炊飯器で炊くことにし、炊いた黒米と、蒸したその他の雑穀を混ぜ合わせるようにしました。そのため、当初の想定よりも工程が増えてしまいましたが、現在でも炊き上がりの生地の状態は、毎回職人が丁寧に確認し、ほどよい硬さになるように気を付けています。

また、黒米を混ぜるだけでは、鮮やかな紫色にはならず、くすんだ色になってしまったので、レモン果汁を入れてきれいに発色するよう工夫しました。ずんだあんは鮮やかな緑色なので、コントラストも生まれ、見た目も楽しめる商品になったと思います。

味の面でこだわった点はどのようなことですか。

ずんだあんには、甜菜でつくられたビートグラニュー糖を使用しています。当社の他の商品でも使用していますが、ビートグラニュー糖は、食べた瞬間は甘く感じるものの、すっと甘さが抜けて、いつまでも口の中に甘さが残りません。甘ったるさが残ってしまうと、それ以上は食べたくなりませんよね。飽きのこない甘さに仕上げた結果、多くの人に受け入れてもらえる味になったのではないでしょうか。

解凍後も水っぽくならず生地にもっちり感があるなどクオリティの高さが評価されました。長年の経験が活かされたのでしょうか。

非常に活かされたと思います。当社は1954年に製粉会社からスタートし、その後団子づくりを始めました。1976年に岩手県が主催する香港での商談会に大福を出品したところ、大盛況でした。その光景が忘れられなかった創業者が、何とかして海外に和菓子を輸出したいと、冷凍和菓子の製造を始めました。当初はうまく解凍できないなど苦労したようですが、その時からの経験、ノウハウの蓄積があったからこそ、今回の冷凍和菓子づくりもスムーズに進められたと思います。

主にどのような方が、購入されていらっしゃいますか。

生活協同組合様の会員における購買層を見ると50~60代が中心ですが、最近は若い世代の方も多いですね。当社の工場に併設しているレストランでも提供していますが、見た目の鮮やかさやおいしさを評価してくださるお客様が多く、年代問わず愛されていると実感しています。

スイーツでありながら雑穀を使っているためにヘルシーな点も魅力ですね。

健康志向の方が雑穀を使っている点に魅力を感じて買われるケースもあるようです。「おはぎが好き」「ずんだあんが好き」という理由で購入されるほか、購入後は冷凍室で保存し、来客があった際にお出しするケースもあると聞いています。冷凍和菓子で保存がきくうえ、常温に2時間置いておけば解凍されて食べられるので、急なおもてなしにも対応しやすいと喜ばれています。

開発にさまざまな試行錯誤の結果、完成した商品が金賞を受賞した時は、どのようなお気持ちでしたか。

率直に「うれしい」の一言に尽きますね。当社は冷凍和菓子をメインとして製造しており、「雑穀おはぎ(ずんだあん)」は当社の和菓子への思いが表れた商品です。受賞によって社員全体のモチベーションが上がりましたし、製造部は「もっといい商品をつくらなければならない」と奮起しています。お取引先に提案するうえでも、金賞受賞が訴求ポイントのひとつとなっており、取扱量の面でも少しずつ結果に表れてきているのでうれしいです。

岩手県花巻市は、全国的に見ても有数の雑穀産地です。雑穀以外にも地元の農産物を使用していますが、農業への思いをお聞かせください。

創業者がずっと大切にし、当社が今も大切にしていることが、地域の農業への貢献です。和菓子をつくる際も、まずは工場に近い地域から原料を調達し、少しでも地域の農業の活性化につなげられるよう心掛けています。 正直なところ周りの農家さんを見ても、高齢化が進み、廃業する農家さんも増えています。当社としても原料の確保には頭を悩ませているところです。私たちが和菓子をつくれるのは、農家さんのおかげ。だからこそ、原料を使う側としての責任を果たしつつ、農家さんへの感謝を忘れず、農家さんと支え合いながら岩手県や花巻市を盛り上げていきたいですね。


広大な自然の花巻市に広がる「もち米圃場」

今後の展望をお聞かせください。

岩手県農業研究センター県北農業研究所と一般社団法人日本雑穀協会が開発した新品種「アワ岩手糯11号」の試験販売が今年から始まります。「アワ岩手糯11号」は蒸し上げた時にとてもきれいな黄色になるので、その色を活かしながら、同じ岩手県でとれるもち米と一緒に、あわ餅やあわぜんざいのような商品をつくれたらいいな、と思っています。同品種は、収量も多いので製品の安定化も図れます。当社の工場に併設しているレストランで、花巻市でしか食べられない花巻市産のあわぜんざいとして提供することで、多くの人に花巻市や岩手県が雑穀やもち米の産地であることを、さらに伝えていきたいですね。

和菓子が、雑穀を知り食べるきっかけになるといいですね。

雑穀を見ても食べても楽しめる使い方ができるのは、和菓子ならではと思っています。雑穀が好きな人が、雑穀を使った和菓子を食べてくださるのも、もちろんうれしいです。一方で、雑穀を使った和菓子を食べたのをきっかけに、雑穀のプチプチ・もちもちした食感を楽しみ、雑穀に興味を持ってもらえたら当社としても励みになりますね。


岩手阿部製粉株式会社 菊池俊哉さん


ありがとうございました。「雑穀おはぎ(ずんだあん)」によって雑穀のさらなる魅力の発信と、地域農業の活性化につながることをうれしく思います。

受賞商品紹介ページ  雑穀おはぎ(ずんだあん)


岩手阿部製粉株式会社(芽吹き屋)
http://www.mebukiya.co.jp/
芽吹き屋オンラインショップ
https://shop-mebukiya.net/
ビオトープ芽吹き屋(花巻観光協会 花巻の旅)
https://www.kanko-hanamaki.ne.jp/gourmet/article.php?p=303